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もうかれこれ12年ほど前…初めて中国大陸へ、上海・桂林・西安・北京の四都市をまわる駆け足ツアーで旅したときのこと。いろんな意味で、中国の広大さとスケールの大きさに圧倒されてきましたが…なかでも、特に強烈に印象に残ったのは、最初に訪ねた上海の「上海博物館」で初めて目にした、少数民族・苗(ミャオ)族の民族衣装…染織と刺繍の素晴らしさ。藍染めの生地にものすごく丹念に緻密に施される艶やかな手刺繍の世界は、アイヌの紋様にもどこかしら通じるような独特の深遠な宇宙観・世界観を醸し出していて、博物館のガラスケース越しに、何ごとかを雄弁に語りかけてくるようでした。さらにその後、桂林の近郊で訪ねた「世外桃源」という少数民族のテーマパークのようなところ…中国南部の豊かな自然環境のなか、観光客向けに巧みにセッティングされた、様々な少数民族の人々と彼等の生活様式や文化とふれあう場…で、苗族の若者達の笑顔に出逢ったときに感じた、まるで前世のどこかで関わりがあったかのような深い懐かしさと親しみの感覚。。 

先日の個展の搬入をようやく済ませた次の日に、今年の「手仕事フェスタ5」に出かけ…そこで一枚のチラシ「Stitches & Stories 苗族刺繍の世界展」が目にとまり、久しぶりに、そんな苗族とのふれあいを思い出して…ちょうど私の個展と入れ替わりのように開催されていた苗族刺繍の世界展へ、行ってみました。

 

会場となったエスニカさんのご厚意で、博物館クラスといっていいほど質の高い展示品や資料の数々も、すべて手に取って触れてみられる、そして写真撮影も、ブログや Twitter や Facebook などでの紹介もOK、とのことで…もちろん私も、きちんとお願いした上で、心に残った何点か、撮影させていただいてきました。

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古来、文字をもたない苗族の染織刺繍の世界には、とても豊かな彼等の精神世界…神話や歴史の物語や民族の誇り、そして日々の生活のなかでの自然界との関わりが描き出されているようです。

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伝説上の龍は雨風をよんで五穀豊穣の恵みをもたらすので、苗族は龍を吉祥のシンボルとみなしているそうで、晴れ着の刺繍には龍の図柄がたくさん用いられています。

 

また、苗族の観念のなかでは、蝶が人類とすべての動物の母なのだとか。彼らの古歌では、こんなふうに歌われているそう。

ー楓の木から虫が生え、虫が蝶になり、蝶は12個の卵を生んだ。巨獣の修牛は地に巣をつくり、鶺宇鳥がその卵を温めてくれた。鶺宇鳥は15年間も辛抱強く温め続けたが、とうとう空腹に耐えられず、翼をはばたかせて飛び立とうとした。その時、ひとつの卵のなかから叫ぶ声がした。「おかあさん、行っちゃだめだ。もう一晩温めてくれたら、僕たちはみんな出られるんだよ。そうでないと、僕たちはみんな駄目になってしまう」この声を出した卵が、人の卵で、苗族の始祖姜央である。鶺宇鳥はそれを聞いて感動し、また戻ってきて卵をかえした。そして長い卵は龍、まだらの卵は虎、黒い卵は牛となり、黄色の卵は人、白い卵は雷神となった。 『色彩夢幻ー貴州省苗族の刺繍』第一章 貴州苗族の刺繍芸術  苗族刺繍の由来(馬 正栄)より

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図案化した蝶の紋様を全面に配した背帯(ねんねこ)。今でも苗族の人たちは楓と蝶をとても大事にしていて、蝶を目立つところに刺繍して、祖先を偲んでいるのだそうです。

また、このねんねこの刺繍生地の内側にはビニールが縫い込まれているそうで…赤ちゃんを背負って晴れ着を着る母親ならではの工夫がこらされています。さらに、若いときには華やかで鮮やかな色合いの刺繍を身につけ、年取ってくると、その刺繍をまた藍で染め直しシックな色合いのものとして再び身につけるとか。 

一枚の刺繍、一揃いの晴れ着を、数年もかけて農作業や家事の合間の時間をやりくりして自分達の手仕事で仕上げる苗族の女性たちならではの、忍耐強く賢い、愛情深い智恵が、いたるところに発揮されている、ほんとうに素晴らしいものばかりです。

 

まだまだ、この日の展示で目にして感動したことも多々あるのですが… ただ表面的な刺繍の技の素晴らしさや図柄や色合わせの美しさばかりではなく、苗族の民族の歴史や生活様式のことをもっと知りたい… と、遅まきながら、私もこの展示を観に行った後に、いくつか本を読み始め… もう少し自分のなかでもよく整理して、また続編として、ここに記したいと思っています。

 

今回の展示は、会場となったエスニカさんの5年越しの想いで実現したものだとか。

愛知県常滑で苗族刺繍の博物館を開いている佐藤雅彦さん瑞代さんのご夫妻〜16年前から衣装や刺繍の布を集め始めたばかりではなく、10年ほど前からは、中国貴州省 台江の村に私費を投じて刺繍学校を設立された方たち〜のご協力あっての展示だそうです。

エスニカさんの想い、苗族刺繍博物館の佐藤さんご夫妻の活動や「苗族って?」という基本的な質問などは…よろしかったら、ぜひこちらをご覧ください。

Stitches & Stories 苗族刺繍の世界展 6月2日より開催

会場の様子は、こちらの映像でどうぞ! stitches&stories 苗族刺繍の世界展アーカイブ

ミャオ族刺繍を育てる会

 

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