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ベルギーのゲントという小さな街に仕事で1週間ほど滞在していた。
泊まっていたのは街の外れのホテルで、目の前にIKEAがあって、どこにでもある郊外の景色に、他にはお店も何もなくて、ただ朝明るくなるのが遅く霧が立ちこめるという意外にベルギーに来たという実感が湧かないまま、そのすぐ側のExpo会場で開かれていたArt Gentというフェアに通う毎日ではあったのだけど、フェアが始まるのが今年から14時からと遅かったのもあって、余裕のある日には街に出て散策をしたり、ある日には思いきって近郊のブルージュまで足を伸ばしてみたり、気付けば随分と楽しませてもらったかもしれない。
 
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日本ではブルージュのほうが有名なようだけれど、個人的には私はゲントの街のほうが好きかもしれないと思うほど、小さな街の中心にはブルージュとおなじように古い教会とギルド建築の建物と石畳が残り、運河沿いにも可愛いレストランやお店が並ぶ、こじんまりとした素敵な街だった。
便利なトラムが縦横に走っているので車の往来があまり多くなく、逆に自転車に乗る人がとても多くて、それが余計に中世にタイムスリップしたような景色を保ってくれているのかもしれない。
ギザギザとしたギルド様式の壁の建物は、まるでハリボテの舞台セットかのように全面にだけ装飾が施され、おもちゃのように可愛い。
 
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じつは私も行くまで知らなかったけど、芸術においても、ヴァンアイク兄弟の「神秘の子羊」の絵画や、S.M.A.K.という現代アートで有名な美術館や精神病棟を改修したGuislain Museumという美術館など、見所も多くて、ゲントのほうが観光地として有名でないことのほうが不思議なほど。
 
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少し観光ガイドのようになっているけれど、ベルギーならではの美味しいチョコレート屋さんもたくさんあり、ワッフル屋にパン屋さん、その佇まいが好きだった有名な老舗のマスタード屋さんもあり、週末の蚤の市もパリとは比較にならないほどお手頃価格で、何より出会う人々が穏やかでフレンドリーで優しい印象が強くて、仕事での滞在ということで事前情報もなにもなくてあまり期待していなかった分、短い時間に街へ出てその魅力に触れるほど、この街が好きになっていた。
 
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パリ出身でブリュッセルに住む知人が「冬の寒さと暗さだけなければ、ベルギーは本当にいいところなんだけどなあ。」と呟いていたので、たしかに冬の日の短さは長く住んでいる人には応えるのかもしれないし、晴れ女だと自負している私でも何回か雨や雹にまで降られた時があったけど、1日のうちに季節が4回変る、といわれるほどお天気が変り易く、雨が降っていたとおもったら晴れ間が見えたりすると、ほんの束の間の太陽の神々しさが一段と輝いて、その瞬間に癒されているのを感じたり、たとえどんよりとした寒空に霧がかった天気であっても、そんな景色が妙に似合う古い街並の威力には、お天気の悪さを呪う気にはならないのだった。
 
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街の外れのホテル生活にも慣れ、長丁場だとおもっていたフェアも終わってみるとあっという間で、一緒に過ごした人々や現地で出会った人達との楽しい交流も尾を引くなか、急ぎ足で帰国の途につくとき、仕事モードに徹していたつもりで観光は副産物的に楽しもうと思っていたはずの自分の中に、ベルギーのゲントという街がしずかに忍び込び、すっかり馴染んでいることに気付いた。
その居心地の良さは不思議なほどにゆったりと自然に自分を包むもので、ただ、もうトラムの1番に乗って街に出ることはないんだな、と考えるととても寂しくなった。
 
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帰国後もその余韻を引きずるように、珍しく時差ぼけのような症状で、どこかで私の体はまだベルギー時間で生活したいとおもっているのかもしれない、などと考えてしまう。
今は、そんな自分を慰めるように、仕入れてきた美味しいチョコレートと香りの良い紅茶を淹れて、毎日すこしずつベルギーを味わっている。