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じつは、飛行機を乗り過ごしたのは、それが初めてではなかった。
以前にも、若気の至りというか、飲み過ぎて…という失態はあったけど、今回は仕事で同行者に迷惑をかけてしまうというのがあってはならないことで、自分でも信じられないし、はげしく動揺して後悔に苛まれる。
とりあえず同行者に連絡をして謝り、先に帰ってもらうことにして、自分のことは何とかして帰りますのでと告げたものの、どうしていいのか分からず、しばらくぼーっとしてしまい、やっと航空会社の電話番号を調べて電話をしてみるものの、やはり空港のカウンターへ行って話をするしかない、という回答だった。
 
少しでもはやく戻りたいのに、電車は容赦なく進み続け、果てしなく感じる2時間を乗り続けてやっと次の駅に到着すると、そこはEksterとかいう町だった。
駅が近づくと、隣の席のおばあさんが、”次の駅で降りてもどるんだよ” ”私も前に電車を間違えて飛行機を乗り過ごしたことがあるわ” ”きっと大丈夫よ” と優しく声をかけてくれた。
先ほど車掌さんを呼びに行ってくれた後ろの男性は、戻りの2時間も長いしお腹がすくだろうから、と持っていたスナックを分けてくれた。
きっと、よほど私が取り乱していたのだろう。
弱っているときに人の優しさや温かさがじんと身に沁みて、心細い気持ちが少し和らぎ、心から感謝した。
車掌さんも降りた駅の係の人も、乗り間違えたことを切符に記してくれて、お金は取らず、皆、本当に親切だった。
 
Eksterの駅で、次のパディントンまで戻る電車を1時間弱待つ。
とても降りて散策する気にもならないし、カフェでコーヒーとサンドウィッチを買ってみたけれど、食欲もなかった。
地理的に一体どの辺りなのか検討もつかなかったけど、ロンドンよりも北に位置しているのか、少し肌寒く、心身ともに少し震える自分を、温かいコーヒーを握って落ち着けていた。
 
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戻りの電車がやっと来て、行きとは反対側の席に座ってみた。
ここまで来ると、今からなにをどう足掻いても変わらないのだ、と少し開き直るきもちで、やっと車窓の風景に目をやれるようになって外を見ると、どこまでも長閑な田園風景がひろがり、ときおり馬や牛が放牧されていた。
ずいぶんと田舎に自分が来ていたことを知り、こんな綺麗な景色を楽しむ余裕が行きの電車の自分にはなかったことに気づく。
景色に癒されつつも、いったい空港へ着いたら自分にどんな運命が待っているのか、最悪の事態も想定しつつ、ただただ何とか救われることを祈るしかなかった。
 
 
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やっとパディントン駅へ着き、今度は乗り間違えないように念入りに確認をして空港行きのヒースローエキスプレスに乗り込む。
乗ってみると、ちゃんと車内にも空港行きの案内が出ているし、間違えようのない電車なのに、どうして自分がさっきの電車で疑わなかったのか不思議でならない。
やっと空港に辿り着いたときは、やはりもう18時をまわっていた。
もしかしたら振替えてくれるかもしれないその日の夜のフライトが19時出発なのを知っていたので、急いでカウンターに駆け寄って事情を説明し、担当のカウンターを案内してもらう。
担当カウンターの男性のところへ行き、チケットを見せて事情を説明すると、すこし話をしただけですぐに「このチケットは変更不可だ」とにべもなくはねつけられた。「電車に乗り間違えたのは自己責任だ」と。それはもっともで、お金を払わなければいけないことも予想はしていたけれど、彼のぶっきらぼうな態度はあまりにも冷たくて、悲しくなる。
 
そこに、奇跡のように隣のカウンターに、前日の乗り継ぎのときに担当してくれた女性が座っていた。
とても良くしてくれて親切だったので、彼女にはきちんとお礼を言って”明日は遅れないから”と告げて別れたのだった。
遠慮がちに彼女のもとへ行き目の前にたつと、最初は目をくれず”シフト交替なので次の人が来て相手をするから”と告げられたのだけど、”私を憶えていますか?”と声をかけると、目を上げて気づいてくれた。
まだその場にいることに驚き、”いったいどうしたの?”と聞いてくれて事情を話すと、一生懸命に記録をチェックして方法がないか考えてくれた。それでも、やはり自己都合でNOSHOWで出発してしまってからのチケットを変更できないことは、私自身もわかっているし、彼女も困った様子で本来はできないのだと丁寧に説明してくれた。
それから、上司に聞いてくるので少し待っていて、と言ってオフィスの中へ行き、しばらくして戻ってくると「あなたがしてあげたいなら」と許可をもらった、と優しく微笑んでくれた。
そのときの彼女は私には本当に天使のようだった。
 
私は抱きつかんばかりに泣きながらお礼をいい、その日のフライトはさすがに無理だけど次の日の朝のフライトに振り替えてもらうことができた。
彼女は最後まで親切に、ホテルのバウチャーは付けられないからと(当然なのに)、泊まるところもいくつかホテルに電話をして探してくれて、私が友達に連絡してみるし、空港に泊まってもよいから、というとお勧めの場所をおしえてくれて心配してくれた。
とにかく、次の朝の早いフライトに今度こそ遅れることだけはないように、それだけが心配だったので、むしろ空港に泊まったほうが安心なくらいだった。
 
張りつめていた体の力が抜けるかわりに、暖かいものに包まれたように心から感謝の気持ちが体中を巡っていく。
 
 
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緊急告知ですが、、
友人のお芝居が今週末上演されます。
「ゴミ、都市そして死」
新宿・紀伊国屋ホール
2013年10月25日(金)19:00 /  26日(土) 13:30  19:00  /  27日(日) 13:30
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随分前から紹介していました友人の劇団Swannyが精力的に活動していて本当に素晴らしい。
ぜひ、観に行ってみてください。