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日本への北欧ミステリーが紹介されたのは、1975年スウェーデンのペール・ヴァールとマイ・シューヴァル夫妻による警察小説「警部マルティン・ベック」シリーズだ。1965年から1975年のスウェーデンの福祉国家のシステムの傾きなど、同国の社会問題を盛り込んだミステリーは評判となった。ベックシリーズを出版する前に、作者はエド・マクベインの「87分署シリーズ」の翻訳を刊行していた。
さらに、同様のタッチで1990年代初めに開始され、現在8作発表されているのがヘニング・マンケルの「刑事クルト・ヴァランダー」シリーズ。翻訳されるとベストミステリーの上位にランクされる警察小説。1990年代のスエーデンを活写している。

近年、日本国内で北欧ミステリーが注目されたのは、2005年からの「ミレニアム」シリーズの影響が大きい。40年前に少女が姿を消した事件の謎解きを軸に、強欲な実業家や、女性と移民への暴力についての問題を提起し、若者たちの風俗などを描き、中でもハッカー女性のリスベットの登場は強烈な印象を残した。
残念ながら作者スティーグ・ラーソンは亡くなってしまったが、映画化され大ヒット。ここから北欧ミステリーの翻訳ラッシュとなった。

スウェーデンでミステリー小説が盛んになったのは、1986年にパルメ首相が暗殺されてから国中が事件解決に関心をもち、その2、3年後に犯罪小説のブームが始まったという。
カミラ・レックバリのエリカ&パトリックシリーズもおもしろい。作家エリカと幼馴染の刑事パトリックが協力して事件を解決して行く。理想的な先端福祉社会のモデルとされる現代スウェーデンの今を、じっくりと描く社会派のミステリーだ。

続いて人気なのがデンマークのオールッソンの特捜部Qシリーズだ。未解決の重大事件を専門に扱うコペンハーゲン警察の新部署。2007年に行われた自治体改革、警察機構の改革の問題を扱う特捜部Q責任者マークと、シリア系アシスタントのアサドのコンビが笑わせる。

新しく出てきたのが2012年翻訳のアイスランド発ミステリー・インドリダソンの『湿地』だ。2012年のベストミステリーに選ばれた。アイスランドは非核・非武装国家、生活水準が高く社会福祉制度も整備されている。事件の追及と並行して、人々の暮らし、人間関係、アイスランド社会のあり方が重層的に描かれて行く。
好評につき「ガラスの鍵賞」「CWAゴールドダガー賞」受賞作の『緑衣の女』が近々刊行される。

《スウェーデン》
◎マルティン・ベック  シリーズ  角川文庫   高見浩訳
『ロゼアンナ(1965)』『蒸発した男(1966)』『バルコニーの男(1967)』『笑う警官(1968)』『消えた消防車(1969)』『サボイ・ホテルの殺人(1970)』『唾棄すべき男(1971)』『密室(1972)』『警官殺し(1974)』『テロリスト(1975)』
◎クルト・ヴァランダー  シリーズ   創元推理文庫   柳沢由美子訳
『殺人者の顔(1991)』『リガの犬たち(1992)』『白い雌ライオン(1993)』『笑う男(1994)』『目くらましの道(1995)』『五番目の女(1996)』『背後の足音(1997)』『ファイアーウォール(1998)』『ピラミッド(1999)未訳』『苦悩する男(2009)未訳』『番外編 霜の降りる前に  未訳』
◎インゲル・フリマンソン『グッドナイト・マイ・ダーリン(1998)』佐宗鈴夫訳  集英社文庫
◎スティーグ・ラーソン   ミレニアムシリーズ  早川文庫  ヘレンハルメ美穂他訳  
『ドラゴン・タトゥーの女(2005)』『火と戯れる女(2006)』『眠れる女と狂卓の騎士(2007)』
◎カミラ・レックバリ   エリカ&パトリック事件簿   原邦史朗・富山クラーソン陽子訳   集英社文庫
『氷姫(2003)』『説教師(2004)』『悪童(2005)』『死を哭く鳥(2006)』
◎ヨハン・テオリン『黄昏に眠る秋(2007)』『冬の灯台が語るとき(2008)』三角和代訳  早川ポケミス
◎アルネ・ダール『靄(もや)の旋律(1999)』ヘレンハルメ美穂訳  集英社文庫
◎ルースルンド&ヘルストレム『制裁(2004)』ヘレンハルメ美穂訳 ランダム文庫
◎カーリン・アルヴテーゲン『満開の栗の木(2010)』柳沢由美子訳  小学館文庫
◎モンス・カッレンフト『冬の生贄』久山葉子訳  創元文庫   3月刊

《デンマーク》
◎ユッシ・エーズラ・オールッスン   特捜部Qシリーズ  吉田奈保子・吉田薫・福原美穂子訳   早川ポケットミステリ
『檻の中の女(2007)』『キジ殺し(2008)』『Pからのメッセージ(2009)』
◎ ロデ&セーアン・ハマ『死せる野獣(2010)』松永りえ訳  早川ポケミス
◎アーナス・ボーデルセン『殺人にいたる病(1971)』村田靖子訳  角川書店

《ノルウェー》
◎アンネ・ホルト『女神の沈黙(1993)』柳沢由美子訳  集英社文庫
◎ジョー・ネスボ『コマドリの賭け(2000)』井野上悦子訳  ランダム文庫

《フィンランド》
◎ペンッティ・キルスティラ『過去よさらば(1997)』篠原俊武訳  新樹社
◎レーナ・レヘトライネン『雪の女』古市真由美訳  創元文庫

《アイスランド》
◎アーナルデュル・インドリダソン『湿地(2002)』柳沢由美子訳  東京創元社
※2012年ベストミステリー   次回作『緑衣の女』東京創元社近刊
◎イルサ・シグルザルドッティル『魔女遊戯(2005)』戸田裕之訳   集英社文庫