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時代小説の名手・乙川優三郎が、昭和の小説を描いた。

昭和21年、谷田部信幸が復員列車で故郷の福島へ帰ってきた。列車の中で腹をこわした谷田部に薬を分けてくれた男を、生活が落ち着いた後、お礼かたがた訪ねるが、見つからなかた。しかし、深山に棲む木地師たちに出会い、その技術と作品に魅せられる。木地師とは、ロクロを使って椀や盆などの木工品を加工製造する職人のこと。かつては原材料となる木々を探して山から山へと移動生活をしていたという。
谷田部は木地師の源流を辿り、ついに復員から15年後、日本という国の成り立ちにも関わる、ある発見に至ることになる。

木地師の歴史とそれが徐々に形をとるにつれて、国とは何か、民族とは何かという問題を読者に突きつける。これは戦争で人生設計を失った人々が再生しようとする物語でもあるのだ。

自らも喪失と諦観の中にありながら、木地師という失われつつあるものを追い求める谷田部。戦地から帰らない次男を思い続ける母親。ひょんなことから知り合ったバーを営みながら画家を目指す佳江。木地師の娘として生まれ、山村の温泉場で芸者になった多希子。運命に立ち向かうもの、運命を従容として受け入れるもの。街は復興しても心が追いつかない。喪失の中であがく彼らの姿がある。

癒えない傷を抱えた人々を描きながら、国家のあり方を問うスケールの大きさ。そこに家族のかたち、せつない慕情、連綿と受け継がれる文化、魂の再生までも描かれる野太で豊穣な現代小説に感動した!

乙川優三郎の最新刊
『麗しき花実』朝日文庫 江戸期の蒔絵師・原羊遊斎、江戸琳派・酒井抱一、画家・鈴木其一などを描く